『虐殺器官』。
なんてまがまがしいタイトルなんでしょうか。
10年ほど前、書店でこの目を引くタイトルに惹かれて文庫本を手に取ったのが、私とこの小説との出会いでした。
「虐殺」なんていう恐ろしい言葉とは裏腹に、この小説はとても読みやすいSFでした。
物語は物騒な描写から始まりますが、それを我慢して中盤まで読み進めると途端に面白くなります。
簡単にあらすじを紹介しますと、
主人公は、クラヴィス・シェパードという、アメリカの暗殺部隊のリーダーです。
彼は上層部からの命令に従い、世界各地で起こる紛争地に赴き、米国に敵対する武装勢力のトップを暗殺してまわっています。
使われる兵器や武器は近未来的なもので、その描写がとてもリアルです。
一方で、そこまで近代化されていない紛争地の描写は、どこか前時代的で生々しいものです。
超近代化された兵器で、名もなき少年兵や少女兵を平然と殺すシェパードたち。
彼らには、任務に抵抗感を抱かないように、事前に特殊な薬剤が投与されています。
そんなシェパードたちの前に、一人の男が立ちはだかります。
その名は、ジョン・ポール。
ありふれた名前を持つその男は、かつでアメリカで学者として言語学の研究をしていたという経歴の持ち主。
そんな男が、世界各地の紛争地に現れては消えるのです。
任務をこなすうちに次第に輪郭をあらわにしていくジョン・ポールは、驚くべき方法で、世界各地の紛争と関係を持っていました。
あとは読んでのお楽しみです。
個人的には、全編を貫くリズミカルで知的な文体が、この小説の何よりの個性だと思います。
ラストは予想外の展開ですが、それも物語全体を見れば納得のいくものでした。
作者の伊藤計劃(いとうけいかく)は、癌をわずらっており、この『虐殺器官』でデビューした後、わずか2年でこの世を去っていますが、その文才を考えるに、なんとも惜しい才能を亡くしたものだと思わずにはいられません。
もっと伊藤計劃氏の作品を読みたかった!と心から思います。
とはいえ死者は生き返るものでもなし、であるならば、この『虐殺器官』を手元に置いて何度も読むことで、その代わりとしたいと思います。
『虐殺器官』、おすすめです。
タイトルのまがまがしさに負けずに、ぜひ手に取って中盤あたりまで我慢して読んでいただきたいと思います。
そこからはぐいぐいと引き込まれ、ラストまで一気に読んでしまうこと請け合いです。
今回は、伊藤計劃『虐殺器官』のレビューでした。
みなさまも、よき読書ライフを!
ではまた!